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一括対応とはなにか?

弁護士 内藤 幸徳

弁護士 内藤 幸徳

東京弁護士会

この記事の執筆者:弁護士 内藤 幸徳

東京弁護士会 高齢者・障害者の権利に関する特別委員会委員副委員長。 祖母の介護をしながら司法試験に合格した経緯から、弁護士登録後、相続、成年後見等、多くの高齢者問題に取り組む。 また、賠償責任の実績が多く、特に交通事故は、年間200件を超える対応実績がある。 医療機関の法務に強く、医療・法務の架け橋になれる弁護士として活動している。

1 一括対応とは?

交通事故で加害者が任意保険に加入している場合、加害者側任意保険会社が、被害者に対して治療費等を立て替えて支払うことが一般的です。
加害者側任意保険会社による治療費の立て替え払いを「一括対応」といいます。

2 一括対応の法的性質

自賠責法上、治療費等は被害者が立て替えた上、加害者が加入する自賠責保険会社にこれらを請求することになります。
自賠責保険会社が支払い可能な金額には法律上、上限がありますので、上限を超える部分については加害者加入の任意保険会社に請求します。
法律上の建付けは以上のようになりますが、これだと、交通事故の被害者が自ら治療費も立て替えないといけなくなり、いかにも不当な結論となります。

そこで、加害者任意保険会社が自賠責保険会社に請求する分の治療費等も「一括して」支払いを行うことがあります。
任意保険会社に請求する分と自賠責保険会社に請求する部分の双方を加害者任意保険会社部分が一括して支払うという意味で、「一括対応」と呼ばれます。
ただ、一括対応は、法律上の請求権ではありません。
法律上の請求権ではないことの具体的な意味については後述します。

3 一括対応の打ち切り

一括対応は、法的請求権ではないと説明しました。

そのため、加害者任意保険会社は、“被害者の同意なく”一括対応を打ち切ることが可能です。
実務上、いきなり打ち切るのではなく、医療照会を行い、医師の判断を基に一括対応の終了時期について協議の場が設けられることが多いです。

4 一括対応打ち切り後の対応

一括対応が終了しても、健康保険を用いて治療を継続することは当然可能です。

一括対応終了後の治療費や慰謝料につきましては、被害者側において、事故との相当因果関係を立証できれば、加害者任意保険会社に請求ができます。

逆に言えば、一括対応終了後は、治療費等について、被害者の自己負担となるリスクが生じる、ということになります。

5 一括対応に関し、弁護士に依頼できること

まず、一括対応が不当に、早期に打ち切られようとする場合、加害者任意保険会社との間で、交渉を行うことができます。
多くの場合、主治医に医療照会を行い、その意見を基に交渉します。
次に、一括対応終了後、治療を継続した場合、治療費等が被害者側の自己負担となるリスクに関しても、相談が可能です。
弁護士は、案件ごとに、個別にリスク判断が可能です(医療記録が全くない場合などは除きます)。
弁護士からの意見を踏まえ、一括対応終了後にどのような対応をすべきか、意思決定が可能となります。

6 まとめ

以上、本稿では、「一括対応」の仕組みと弁護士に依頼できることを説明しました。
弁護士委任の最も大きなメリットは、損害額の交渉になり、これは治療終了後に行われることになります。

他方、治療中から、弁護士にいつでも相談できることで、安心した状態で、かつ、将来的な見通しも踏まえた意思決定が可能になる点も、決して小さくないメリットであると考えます。

弁護士委任はどの時期でも可能ですので、事故発生直後の状況でも、弁護士委任をご検討ください。